デルフィニア戦記を語る

今、一番おススメの小説家、茅田砂胡さんの代表作。友人に対する布教成功率3/2の作品
もともとは大陸書房で王女グリンダシリーズとして発行されていた作品でしたが、
(デルフィニアの姫将軍・グランディスの白騎士)
なんと大陸書房は倒産。
その後、中央公論社にて仕切り直しをして発行されたのが、この「デルフィニア戦記」シリーズ。
ちなみに、大陸書房版の方はその後中央公論社にて「王女グリンダ」として一冊にまとまり再発行されたので、
興味を持たれた方は読んでみて下さい。作品のパワーアップぶりが分かって面白いですよ。


- あらすじ -

何かのはずみで惑星ボンジュイから、違う世界に落っこちてきてしまった少年(見た目少女)、
グリンディエタ・ラーデン(13才)。
そればかりか男だったはずなのに、なぜか体は女に…。
男の体だった時もキラキラの美少年だったが、女になっても金髪緑眼の美少女。
自称、狼の変種。狼に育てられ、人間離れした運動能力・怪力を持つ。
そして、私生児だったが王位を継いだ…が、反乱にあって王位を追われた男、
ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン。
王様にはなりたくなかったが、しかたがないのでなったと言ってはばからない、ちと変わった偉丈夫。
このウォルとリィが出会い、そして、ウォルの王権奪回をリィが手伝うことになる。
第一部は1〜4巻、リィとの出会いからウォルが政権を取り戻すまでの話。

第二部は5〜18巻、その後の話。基本的にはリィとシェラの話、かな。
デルフィニアで王女として暮らすことになったリィの元に、刺客であるシェラ(♂)が女官としてやってくる。
それが、いろいろな事情からシェラは失業し、とりあえずはリィと共に行動すことになる。
内戦を納めて一息付いたと思ったら、外国から侵略の手が伸びてきて、
リィを嫁に欲しいという国が出てくるわ、国境にいちゃもんつけられるわ、
ウォルも結婚するし、人質になるしで、ドタバタ大変。
…ってので、多分間違ってはいないハズ。

ファンタジーというと、剣と魔法の世界とよく言いますが、
この作品はかなり剣に偏った世界。終盤はそうでもないんですがね。
それでも、リィの怪力はある種の魔法のような感じで、バランスとれてます。


◇なぜ「デルフィニア戦記」に惚れたのか。

まずは挿絵が綺麗。これかなり重要。ちなみに挿絵は沖麻実也さん。
番外編つきの画集も出てます。

そして、もともと小説の何が面白いかといえば、
程度の差こそあれ、平凡とは違う状況に立たされた登場人物が、その状況でどう生き抜くか…、
そこにあると思う。
その点からして、「デル戦」は申し分ない。
異世界に行ってしまう話というのは、ファンタジーではかなり王道設定ではあるが、
「デル戦」は、
「異世界に来てしまった少年(少女?)の話」ではなく、
「異世界から少女が来た少女(?)と出会った人々の話」とした方がしっくりくる。

タイムスリップものもそうであるが、 普通、元いた世界とは異なる価値観に、トリップした者は驚き、困惑する。
しかし、段々とその世界に慣れ、意志を固め、その世界で生きる方針を定める。
主人公の活躍と並行し、そんな成長の過程を、
自分も主人公のようにその世界を理解しながら、読んでいくのも読者の楽しみである。

ところがリィは、過程もなにも、もう定まっているのである。
齢十三にして、しっかりとした戦士の魂を持っている。
ボンジュイであろうがデルフィニアにいようが、相手が王であろうが変らずに輝き続ける誇りを。
これはリィが、人間離れした力を持っているせいで、
人間の子として生まれたこと自体が、異世界に出現したのと同じ状況であったからであろう。
既に、異世界経験済み。困惑も乗り越え済み。
しかも、生きる方針というかアイデンティティの確立がしっかりとできている…ときている。

そんなことだから、逆に、
来てしまった者にショックを与える立場にいるはずの異世界側の者達が驚き、困惑し、
自分たちとは違う価値観で生きるリィと、どう接するかを悩むハメになる。
そんなわけなので、読んでいる方としては、
リィではなく、ウォル達と同じ立場でリィをどう理解するかを考えていくことになった。
少なくともボクはね。

で、リィの周りには、もちろん戦士の魂を理解しない者もいるのだが、
ウォルを筆頭にけっこう理解者がいて、変な自分をある程度受け入れてくれる。
だから居心地がいい。とリィは言うのだが、
人間は自分と相容れない者を拒絶するってことをリィは良く知っているので、
いろいろ気を使って人間のふりをしているのだ。
ところがね、
リィの哲学に共感したりなんかして、
「私もそう思う」とか、そんなことばかり考えて読んでいると、ガツンとやられることになる。
同調ばかりでなく、理解できない時は「貴方は貴方、私は私」と割り切ることもできなければならない。
それができなければ、ただ拒絶しかできなくなると、思い知らされた。
結婚式前のリィの告白がそれ。
「そうだよな、そうそうすべてを他人に曝け出すワケないぜ」と思わせてくれた展開に惚れ直した。
イヴンの傷治したときもそう。
また、薬盛られてウォルと大乱闘になった時も、改めて見せつけられた魂にクラクラきた。

で、
リィの魂や、ウォルの人柄や一風変わった政治姿勢も面白いが、
脇役の人々も、しっかりと「自分」というものを持っていて…、まぁ、つまりは個性豊かである。
ウォルの幼馴染みで山賊まがいのイヴン。ウォルが王様だろうが気にせずに友達付き合いをしている変わった男。
ウォルの従兄弟で、王様なんて因果な商売だと言いきる筆頭公爵のバルロ。
その友人の騎士団長ナシアス。ドラ将軍、その娘シャーミアン。宰相ブルクス、ナドナド…。
ウォルの周りには選りすぐりの変人…もとい、優秀な人材が集まっていて面白い。
女の人も強くて◎。

それに加え、シェラの存在がある。
彼は他の登場人物と違い、暗殺マシーンとして育てられたので、「自分」というものがない。
誰かの命令でしか動くことができず、自分で考えることができないただの木偶。
それが、いきなり変人の巣窟に放りこまれ、失業してよりどころを失ってしまうのだ。
彼は死のうとするが、リィの魂に触れたことで、徐々に自由とは何かを理解し、
そしてついに自分自身で立ちあがる…!
さっき書いた「主人公の成長」っていうのは、彼の分担なのかなぁ?
刺客の成長という点で、「あずみ」という似たマンガがあって人気があるが、
ボクはデル戦のシェラの方が深くて好きだ。

あと、割れ鍋に閉じブタって感じで、カップリングもいいんですよ。
貴族なりの恋愛、身分違いの恋愛、バツイチとバツニの恋愛などなど。

面白いだけでなく、「何を大切にして生きるのか」そんなことを考えさせられる作品。
…そんな気持ちを抱かせる作品なのだ、「デルフィニア戦記」は。
そして、恥ずかしながら、ボクはラストで泣きましたよ。
涙を流させるだけの力がある作品なのだと思うと、ますます惚れる、よなぁ〜。

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後から知ったんですが、「デル戦」のもとネタは、なんとキャプテン翼のパロディ同人誌だった!
日向小次郎と、サラ島津こと若島津の話だったなんて…。